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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)338号 判決 1981年4月21日

原告

株式会社佐竹製作所

被告

特許庁長官

右当事者間の昭和55年(行ケ)第338号審決取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

特許庁が昭和55年9月30日、同庁昭和52年審判第6035号事件についてした審決を取消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

第2原告の請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和49年5月20日特許法(大正10年法律第96号、以下「旧法」という。)第9条第1項の規定により、昭和34年2月3日特許出願した昭和34年特許願第3468号(昭和35年10月3日特許出願公告昭和35年第14468号、以下「原出願」という。)からの分割出願として名称を「撰別機」とする発明(以下「本件発明」という。)につき特許出願(昭和49年特許願第56342号)したところ、昭和52年2月18日拒絶査定を受けた。

そこで原告は、昭和52年5月12日、審判を請求し昭和52年審判第6035号事件として審理されたが、特許庁は、昭和55年9月30日「本件審判の請求は成り立たない」との審決をし、その謄本は同年10月15日原告に送達された。

2  本件発明の要旨

一方側を供給側Hとし、供給側Hに対する反対側他方を排出側Lとし、供給側Hより排出側Lに向つて異種混合穀物粒が徐々に流動するように構成した粗雑面よりなる撰別盤(1)に、穀物粒の前記流動する方向に対して左右側の方向で、かつ、斜上下の方向の往復動Wを与え、もつて、撰別盤上の混合粒のうち、比重の大なる穀物粒を揺上側H1方向に隆積させ、比重の小なる穀物はその反動で反対側に偏流させて分離させるようにしたものにおいて、前記撰別盤(1)はこれを複数段多段状に重架させてなる撰別機。

3  審決の理由の要旨

本件発明の要旨は、前項のとおりである。

ところで、請求人(原告)は、分割出願による出願日の遡及を主張しているので、まず本件の出願日を何時とすべきかについて検討する。

本件は、原出願が出願公告された昭和35年10月3日より後の昭和47年7月29日に原出願の分割を主張して出願したものである。

ところで、原出願に適用される旧法第9条第1項に規定する特許出願の分割の対象となる発明は、当該特許出願の願書に添付された明細書〔旧法施行規則(大正10年農商務省令第33号、以下「旧規則」という。)第37条第1項〕の「特許請求ノ範囲」(旧規則第38条第1項第5号)に記載された発明を指し、明細書の「発明ノ詳細ナル説明」又は願書に添付された「図面」にのみ記載された発明は含まれないと解され、また旧法第9条第1項の分割出願をなし得る時期は、出願人が願書に添付した明細書又は図面について訂正をすることができる時又は期間内に限られると解される。

そこで原出願をみると、原出願の「特許請求ノ範囲」にはただ一つの発明しか記載されておらず、しかも、原出願について明細書又は図面の訂正をすることができる時又は期間内に本件が分割出願されたものでもない。

従つて、本件は適法な分割出願とは認められないから、その出願日は、現実の出願日である昭和47年7月29日である。

そして、本件発明と原査定の拒絶理由に引用された特公昭35―14468号公報(原出願の公告公報)に記載された発明とを比べると、両者が同一であることは明らかである。

従つて、本件発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

4  審決を取消すべき事由

審決は、旧法第9条第1項に規定する特許出願の分割出願の対象となる発明は、明細書の「特許請求ノ範囲」に記載された発明を指し、明細書の「発明ノ詳細ナル説明」又は「図面」にのみ記載された発明は含まないとし、また、分割出願をなし得る時期は出願人が願書に添付した明細書又は図面について訂正をすることができる時又は期間内に限られる、と判断した。

しかしながら、特許出願の分割出願は出願の特許請求の範囲に記載されている発明についてだけ許されるものではなく、発明の詳細な説明又は図面に記載されている発明についても許されるべきものである。また、分割出願をなし得る時期も明細書又は図面を訂正し得る時又は期間内と限定すべきものではなく、原出願について査定又は審決が確定するまではすることができると解すべきである。

従つて、本件分割出願を適法な分割出願と認められないとした審決は違法であつて取消されるべきものである。

第3被告の答弁

請求の原因に記載の事実は、すべて認める。

理由

1  請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。

旧法第9条第1項の規定による分割出願において、もとの出願から分割して新たな出願とすることができる発明は、特許制度の趣旨に鑑み、もとの出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲に記載されたものに限られず、その要旨とする技術的事項のすべてがその発明の属する技術分野における通常の技術的知識を有する者においてこれを正確に理解し、かつ、容易に実施することができる程度に記載されているならば、右明細書の発明の詳細なる説明ないし右願書に添付した図面に記載されているものであつても差し支えなく、また、旧法における分割出願が許される時期は、もとの出願について査定又は審決が確定するまでであると解するのが相当である。

従つて、右と異なる見解により、本件は旧法のもとにおける適法な分割出願とは認められないとし、このことを前提として本件発明は原出願に係る発明と同一であると判断した審決は違法であり、取消を免れない。

2  よつて、原告の本訴請求を認容し、訴訟費用は敗訴の当事者である被告に負担させることとして主文のとおり判決する。

(杉本良吉 高林克巳 舟橋定之)

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